マクロツイーター

はてダから移行した記事の表示が崩れてますが、そのうちに直せればいいのに(えっ)

PandocでWindowsをシャットダウンする件について

皆さんもよくご存知の通り、LuaLaTeXでは「Windwosをシャットダウンする文書」が作成できます。これはLuaコードを通じて(C言語コンパイルして生成した)マシン語のプログラムが実行できることを利用しています。

ところで、以前のネタで紹介した通り、PandocではLuaでフィルターを実装することができます。となると、マークダウンという不思議な形式の文書でWindowsをシャットダウンしてみたくなるのは当然の帰結でしょう。

どうもPandocでWindowsをシャットダウンできそうにない件

Luaでバイナリ(マシン語)のモジュールを作製する際には、次のような感じのC言語の関数を実装します。

※以下のコードはLuaLaTeXのやつで使っているモジュール1ソースコードからの抜粋。

/* Opens the module.
 */
__declspec(dllexport) int luaopen_shutwindown(lua_State *L) {
    luaL_newlib(L, registry);
    return 1;
}

Luaでモジュールを読み込む(require "shutwindown")と、この関数が実行されるのですが、この中で使われているluaL_newlibというのは「Lua処理系の連携用API」の一つです。連携APILua処理系と外部のコードの間のやり取りを行う機構で、バイナリのモジュールの実装に不可欠なものです。

つまり、バイナリのモジュールを動作させるには、Lua処理系の連携APIの関数が「外から見えている」必要があるわけです。TeX Live配布におけるLuaTeXのLua処理系は動的リンクのライブラリ(WindowsだとDLL形式)になっているため、連携APIは外から見えています。これに対して、Pandocの公式のWindwos用バイナリではLua処理系が静的にリンクされていて連携APIが外から見えません。これではLuaTeXの時と同じようには「Windowsをシャットダウンするモジュール」を実装することはできません。

それでもPandocでWindowsをシャットダウンしたい件

絶望的な状況になっていしまいましたが、もう少し考えてみましょう。

先程述べた通り、Luaコードにおいてモジュールshutwindownの読込(require)を行うとC言語の関数luaopen_shutwindownが呼ばれます。Luarequire "shutwindown"に対応する動作なので、通常はこの関数では「モジュールの関数を収めたLuaテーブルを作成して返す」ことが期待されています。しかし、とにかくモジュールの実装コードに実行を移すことができているのだから、ここで早々とシャットダウン開始の処理を済ませてしまえばいいわけです。

/* Opens the module.
 */
__declspec(dllexport) int luaopen_shutwindown(void *L) {
    shutdown_system(); /* シャットダウン! */
    return 0;
}

すなわち、このモジュールがインストールされたLua処理系では、require "shutwindown"を実行するだけでシャットダウンが開始します。

改めてPandocでWindowsをシャットダウンする件

というわけで、作ってみました

このリポジトリにあるファイルpcshutwindown.dllとshutdown.luaをカレントディレクト2に置いた上で、何か適当なMarkdown文書’(リポジトリにあるREADME.mdでもいいでしょう)をPandocで変換しましょう。もちろんフィルタにshutdown.luaを指定することを忘れずに。

C>pandoc README.md --lua-filter shutdown.lua
System will be shutdown in 10 seconds...
System will be shutdown in 9 seconds...
System will be shutdown in 8 seconds...
System will be shutdown in 7 seconds...
System will be shutdown in 6 seconds...
System will be shutdown in 5 seconds...
System will be shutdown in 4 seconds...
System will be shutdown in 3 seconds...
System will be shutdown in 2 seconds...
System will be shutdown in 1 second...
FAREWELL!

f:id:zrbabbler:20190616011206p:plain

まとめ

結局、PandocのLuaフィルタでバイナリモジュールを利用するのは難しい、のかな?


  1. 当該の記事を書いたときには、当時のLuaTeXに合わせてLua 5.1版を前提にした実装でしたが、現在(TeX Live 2019以降)のLuaTeXのLua処理系は5.3版であるため、5.3版で動作するように改修しました。

  2. Pandocの公式バイナリではLuaのバイナリモジュール読込パスにはカレントディレクトリが含まれています。

「サイゼリヤで1000円あれば最大何kcal摂れるのか」をSATySFiで解いてみた

SATySFiをオワコンにしてしまうのは忍びないので、やってみた

作ったもの

このsaizeriyaパッケージを使うとSATySFi文書中でサイゼリヤ問題ができるようになる。

[saizeriya-test.saty]

@require: stdja
@require: saizeriya
%saizeriya.satyhをカレントに置く場合は↓を使う
%@import: saizeriya

%------------------------------------------------- メニューデータ
let the-menu = [
(|calorie=130;cost=299;name=`彩りガーデンサラダ`|);
(|calorie=115;cost=349;name=`小エビのサラダ`|);
(|calorie=134;cost=299;name=`やわらかチキンのサラダ`|);
(|calorie=92;cost=299;name=`わかめサラダ`|);
……(中略)……
(|calorie=164;cost=369;name=`トリフアイスクリーム`|);
]
%------------------------------------------------- 本文
in

document (|
  title = {\SATySFi;でサイゼリヤ問題};
  author = {某ZR(アレ)};
  show-title = true;
  show-toc = false;
|) '<                                          
  +section{問題}<
    +p{
      予算1000円以内で,サイゼリヤで最大カロリーを摂取するような
      注文の仕方を求めよ。
      ただしサイゼリヤの料理のメニューは以下の通りとする。
    }
    %the-menuのメニューを箇条書きで出力する
    +saizeriya-listing-menu(the-menu);
  >
  +section{解答}<
    +p{
      以下の通り。
    }
    %サイゼリヤ問題を解いて解答を表組で出力する
    +saizeriya-tabular-solution(the-menu)(1000);
  >
>

この文書をコンパイルすると次の出力が得られる。

※SATySFiの0.0.3版を使用。

f:id:zrbabbler:20190528215346p:plain
「問題」の出力の冒頭

f:id:zrbabbler:20190528215409p:plain
「解答」の出力

まとめ

というわけで、SATySFiは非オワコンで素敵!

「サイゼリヤで1000円あれば最大何kcal摂れるのか」をPandocで解いてみた

どうやら、TeXを使うと計算と組版を一気にやってしまえて最高、なようです。

ところで、皆さんご存知の通りTeXアレなわけですが、どうやら聞くところによると、Pandocも相当アレなようです。

となると、サイゼリヤで1000円あれば最大何kcal摂れるのか」をPandocで一気に計算して組版する、というネタがあって然るべきなのは、当然の帰結でしょう。

というわけで、やってみました

方針

サイゼリヤ問題を解くMarkdown文書

[sample.md]

# 問題

予算1000円以内で,サイゼリヤで最大カロリーを摂取するような注文の仕方を求めよ。ただしサイゼリヤの料理のメニューは以下の通りとする。

[一覧](./menu.csv){.saizeriya-list}

# 解答

以下の通り。

[解答](./menu.csv){.saizeriya-solve badget=1000}

[menu.csv]

彩りガーデンサラダ,130,299
小エビのサラダ,115,349
やわらかチキンのサラダ,134,299
わかめサラダ,92,299
イタリアンサラダ,196,299
……(略)……

書式の説明

特定のクラスを付けたリンク要素を書くと、その部分がフィルタによって置き換えられます。

次のように、クラスにsaizeriya-listを指定したリンクを書くと、指定のメニューファイルを読み込んでメニューの一覧の箇条書きを生成してその場に出力します。(テキストは出力されません。)

[テキスト](メニューファイルのパス){.saizeriya-list}

クラスにsaizeriya-solveを指定したリンクを書くと、指定のメニューファイルを読み込んでサイゼリヤ問題を解き、その解答を表組にしたものを出力します。この際に予算額badgetという属性で指定します。

[テキスト](メニューファイルのパス){.saizeriya-solve badget=予算額}

さっそくPandocしてみる

以下のコマンドで、先のMarkdown文書(sample.md)をWord文書に変換します。

pandoc sample.md --lua-filter=saizeriya.lua -o sample.docx

※「Wordは嫌だ」という人は、出力ファイル名のsample.docxの拡張子を変えて別の形式を選びましょう。例えばsample.odtとするとOpenDocument形式になります。sample-out.mdのようにすると別ファイルにMarkdown形式で出力できます。

出力されたWord文書(sample.docx)を開いてみると、メニュー一覧が正しく挿入されていることが判ります。

※以下の出力結果はPandoc 2.7.2(最新版)によるものです。

f:id:zrbabbler:20190525154330p:plain
sample.docx 1ページ目冒頭

そして、最後のページをみると、例の栄養満点な3点セットが、無事に出力されていました。

f:id:zrbabbler:20190525154405p:plain
sample.docx 4ページ目

まとめ

たとえTeX言語ができなくても、Pandocがあれば計算と組版を一気にやれます! スゴイ!(えっ)

決定版! TeX のインストール・設定方法

皆さん、技術書を読みましょう!

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以上!

完璧!! #えっ

Pandocで(u)pLaTeXしてみる話

どうやら、新しいPandocではビルドにLatexmkが使えるらしい。

  • Add latexmk as an option for --pdf-engine (#3195). Note that you can use --pdf-engine-opt=-outdir=bar to specify a persistent temp directory.

Pandocの「PDF出力エンジン」(--pdf-engine)として指定できるLaTeXエンジンはpdfLaTeX、XeLaTeX、LuaLaTeXに限られている。しかし、Latexmkが使えるようになったということは、これを利用して「(u)pLaTeX+dvipdfmxでPDFを生成する」ことができるはずである。

PandocでLatexmkしてみる

とりあえず、簡単な英語のMarkdown文書を用意して試してみる。

[test1.md]

# Welcome!

Hello, Pandoc *chaos*!

これを--pdf-engine=latexmk付のpandocで変換する。

※プロンプトを>で表す。

> pandoc --pdf-engine=latexmk test1.md -o test1.pdf
Latexmk: Run number 1 of rule 'pdflatex'
Latexmk: Run number 2 of rule 'pdflatex'

f:id:zrbabbler:20190506233335p:plain
test1.pdfの内容

フツーにPDFが出力できた。端末表示をみると、どうやらpdfLaTeXを使うワークフローが選択されているようである。実際、出力PDFの文書情報のProducerの値もpdfTeX-1.40.20となっている。

さらに細かく挙動を調べてみると、以下のようになっているようだ。

  • latexmk起動時に-pdfオプションが指定されている1
  • latexmk実行時にカレントディレクトリは変更されていない。
    • Latexmkの-outdirオプションでLaTeXの出力先を変えている。
    • 従って、カレントにlatexmkrcがある場合は読み込まれる。
    • ただし、latexmkrc内に$pdf_modeの設定を書いても、起動オプションの-pdfにより上書きされて、常に$pdf_mode=1となる。

Pandocで(u)pLaTeXする方法

以上のことから考えると、「Pandocで(u)pLaTeX+dvipdfmxを使う」ためには以下のようにすればよいことがわかる。

  • pandocコマンドのオプションに-pdf-engine=latexmkを指定する。
  • latexmkのオプションに-pdfdviTeX→DVI→PDFのワークフローを指定)を追加するために、pandocのオプションに--pdf-engine-opt="-pdfdvi"も指定する。
  • カレントにlatexmkrcを置いて、そこに(u)pLaTeX+dvipdfmxを使うための設定を書く。

つまり、Pandocのコマンド行は以下の形になる。

> pandoc --pdf-engine=latexmk --pdf-engine-opt="-pdfdvi" ......

latexmkrcの内容は(最低限として)以下のようにする。
※先述の通り、$pdf_modeの設定は効かないので不要。

upLaTeX+dvipdfmxの場合:

$latex = 'uplatex';
$bibtex = 'upbibtex';
$dvipdf = 'dvipdfmx %O -o %D %S';
$makeindex = 'mendex -U %O -o %D %S';

pLaTeX+dvipdfmxの場合:

$latex = 'platex -kanji=utf8';
$bibtex = 'pbibtex -kanji=utf8';
$dvipdf = 'dvipdfmx %O -o %D %S';
$makeindex = 'mendex -U %O -o %D %S';

もちろん、この設定はPDF生成に用いるコマンドを変更するだけのもので、PandocのLaTeXコード生成には何も影響を与えない。従って、ここで示したもの以外のPandocの設定は「途中で生成されるLaTeXファイルが(u)pLaTeXで通るようにする」必要がある。

実際にupLaTeXしてみた

例として、日本語のMarkdown文書をPandocのデフォルトのLaTeXテンプレートを通してupLaTeX+dvipdfmxのワークフローでPDFに変換してみる。デフォルトのLaTeXテンプレートは本来は(u)pLaTeXには対応していないが、BXjsclsのクラスのPandocモードであれば利用できる。

※もちろん、カスタムのテンプレートを指定してもよい。

[test2.md]

---
title: PandocでupLaTeXしたい話
author: 某ZR
documentclass: bxjsarticle
classoption:
  - pandoc
papersize: a5
---

# upLaTeXできると何がうれしいか

よくわからない。

※先頭にYAMLメタデータブロックを記述している。

これを次のコマンドで変換する。

> pandoc --pdf-engine=latexmk --pdf-engine-opt="-pdfdvi" test2.md -o test2.pdf
Latexmk: Run number 1 of rule 'latex'
Latexmk: Run number 2 of rule 'latex'
Latexmk: Run number 1 of rule 'dvipdf'

f:id:zrbabbler:20190506233146p:plain
test2.pdfの内容

別解

いちいちカレントにlatexmkrcを置くのは面倒である。代わりに、固定のディレクトリ(仮に/path/to/dirとする)にLatexmkの設定ファイルを置いた上でそれを-rオプションで読み込むという方法もある。

この場合、Pandocが生成するコマンド行において-rオプションが-pdfより後ろに置かれるため、設定ファイル内の$pdf_modeの記述で-pdfを上書きすることができる。従って、次のように$pdf_,modeを含めた設定ファイルを用意しておくとよい。

[/path/to/dir/uplatex-dpx.latexmk]

$latex = 'uplatex';
$bibtex = 'upbibtex';
$dvipdf = 'dvipdfmx %O -o %D %S';
$makeindex = 'mendex -U %O -o %D %S';
$pdf_mode = 3;

その上で、以下のコマンドを実行する2。(実際には改行なしの1行で入力する。)

pandoc --pdf-engine=latexmk
    --pdf-engine-opt="-r" --pdf-engine-opt="/path/to/dir/uplatex-dpx.latexmk"
    test2.md -o test2.pdf

まとめ

新しいPandocを使うと「Pandocで(u)pLaTeXする」のがチョットだけ楽になる、かもしれない。


  1. 実際のコマンド行は次の通り: latexmk -interaction=batchmode -halt-on-error -pdf -quiet -outdir=TEMPDIR TEMPDIR/input.tex;ここでTEMPDIRはPandocが生成した一時ディレクトリの名前。

  2. 一つの--pdf-engine-optでは一つのコマンド引数しか指定できないので、-r /path/to/dir/uplatex-dpx.latexmkというオプションを指定するには煩雑であるが--pdf-engine-optを2回書くしかないようである。

TeX Liveで令和してみる話

新しいTeX Live 2019が、日本のCTANミラーサイトにも届き始めているようである。

というわけで、早速、TeX Live 2019で令和してみる。和暦機能の説明については平成の記事で済ませてあるので、ここでは単純に結果だけを示す。

令和してみた結果

% pLaTeX文書
\documentclass[a4paper]{jarticle}
\和暦
\title{しあわせ{\TeX}言語入門}
\author{非ZR氏}
\begin{document}
\maketitle
% 中身はまだ無い。
\end{document}

f:id:zrbabbler:20190503072821p:plain
jarticleな出力結果

令和!

% upLaTeX文書; UTF-8
\documentclass[a4paper]{ujarticle}
\和暦
\title{しあわせ{\TeX}言語入門}
\author{非ZR氏}
\begin{document}
\maketitle
% 中身はまだ無い。
\end{document}

f:id:zrbabbler:20190503072842p:plain
ujarticleな出力結果

令和!

% upLaTeX文書; UTF-8
\documentclass[uplatex,a4paper]{jsarticle}
\和暦
\title{しあわせ{\TeX}言語入門}
\author{非ZR氏}
\begin{document}
\maketitle
% 中身はまだ無い。
\end{document}

f:id:zrbabbler:20190503072857p:plain
jsarticleな出力結果

令和!

% LuaLaTeX文書; UTF-8
\documentclass[a4paper]{ltjsarticle}
\和暦
\title{しあわせ{\TeX}言語入門}
\author{非ZR氏}
\begin{document}
\maketitle
% 中身はまだ無い。
\end{document}

f:id:zrbabbler:20190503072913p:plain
ltjsarticleな出力結果

令和!

% LuaLaTeX文書; UTF-8
\documentclass[lualatex,ja=standard,a4paper]{bxjsarticle}
\和暦
\title{しあわせ{\TeX}言語入門}
\author{非ZR氏}
\begin{document}
\maketitle
% 中身はまだ無い。
\end{document}

f:id:zrbabbler:20190503072940p:plain
bxjsarticleな出力結果

令和!

% LuaLaTeX文書; UTF-8
\documentclass[paper=a4]{jlreq}
\和暦
\title{しあわせ{\TeX}言語入門}
\author{非ZR氏}
\begin{document}
\maketitle
% 中身はまだ無い。
\end{document}

f:id:zrbabbler:20190503072959p:plain
jlreqな出力結果

令和!

% LuaLaTeX文書; UTF-8
\documentclass[tate,book,paper=b6,jafontsize=9pt]{jlreq}
\和暦
\title{しあわせ{\TeX}言語入門}
\author{非ZR氏}
\begin{document}
\maketitle
% 中身はまだ無い。
\end{document}

f:id:zrbabbler:20190503074100p:plain
縦組のjlreqな出力結果

令和!

% LuaLaTeX文書; UTF-8
\documentclass[a4paper]{ltjsarticle}
% 例によってエスペラント
\usepackage[main=japanese,esperanto]{babel}
\newcommand{\Eo}[1]{%
  \begin{otherlanguage}{esperanto}#1\end{otherlanguage}}
\和暦
\title{しあわせ{\TeX}言語入門\\
  \Eo{Feliĉa Kurso pri la Lingvo {\TeX}}}
\author{mal-ZR}
\date{\today\quad(\Eo{\today})}
\begin{document}
\maketitle
% Neniu enhavo.
\end{document}

f:id:zrbabbler:20190503074141p:plain
Babelな出力結果

令和!

% upLaTeX文書; UTF-8
\documentclass[dvipdfmx,14pt]{beamer}
\usepackage{pxjahyper}
\renewcommand{\kanjifamilydefault}{\gtdefault}
\usepackage{bxwareki}% 和暦したい
\usetheme{EastLansing}
\title{しあわせ{\TeX}言語入門}
\author{非ZR氏}
\date{\warekitoday}% 和暦日付を明示指定する
\begin{document}
\begin{frame}
\titlepage
\end{frame}
\end{document}

f:id:zrbabbler:20190503074406p:plain
Beamerな出力結果

令和!

まとめ

令和したい人は、新しいTeX Liveをインストールしよう!

TeXで平成してみる話

普通にやればオッケー。

% upLaTeX文書; UTF-8
\documentclass[uplatex,a4paper]{jsarticle}
\和暦
\title{{\TeX}言語、ダメゼッタイ!}
\author{某ZR}
\begin{document}
\maketitle
% ダメゼッタイ
\end{document}

f:id:zrbabbler:20190430143858p:plain
平成できた

平成!

……なのであるが、日本語LaTeXの「和暦の日付」に関する機能について、もう少しキチンとまとめておく。

\today を和暦にする話

以下に挙げる和文文書クラスでは、当日日付(\today)を和暦で出力することができる。

  • pLaTeXの標準和文クラス: jarticle、jreport、jbook、tarticle、treport、tbook
  • upLaTeXの標準和文クラス: ujarticle、ujreport、ujbook、utarticle、utreport、utbook
  • jsclassesバンドルのクラス: jsarticle、jsreport、jsbook
  • LuaTeX-jaの和文クラス: ltjarticle、ltjreport、ltjbook、ltjtarticle、ltjtreport、ltjtbook、ltjsarticle、ltjsreport、ltjsbook
  • BXjsclsバンドルのクラス: bxjsarticle、bxjsreport、bxjsbook、bxjsslide
  • jlreqクラス

(恐らく、TeX Live収録の日本語用文書クラスはこれが全てである。)

これらのクラスでは、以下の命令を用いて\todayの和暦・西暦表示を切り替える。

  • \和暦\todayの年表示を和暦(元号)にする。
  • \西暦\todayの年表示を西暦にする。

既定値については注意が必要である。

  • pLaTeX/upLaTeXの標準和文クラス」および「LuaTeX-jaの“pLaTeX標準の互換クラス”1」については旧来は和暦が既定であったが、改元後に不適切な表示が出るのを防ぐため、2018年7月頃のリリースで既定が西暦に変更された。従って、これらのクラスにおいて\today命令を利用している(\dateを省略する場合も含む)場合は\和暦\西暦を明示的に宣言してほうがよいであろう。
  • それ以外のクラスについては、西暦表示が既定である。

それで結局令和できるのか

以前の記事の時点では一部のクラスは「令和」に未対応であった。しかし現在においては、和暦対応のクラスの全てが対応を済ませている。従って、最新のW32TeXでは明日の改元後に「令和」が出力される。

TeX Liveについては……、そう、ちょうど今朝(日本時間の午前7時頃)TeX Live 2019がリリースされた。従って、新しいTeX Live 2019をインストールすれば、和暦対応のクラスの全てで「令和」が出力される。ただし、国内のミラーへの反映に時間がかかるため、TeX Live 2019が一般に入手できるのは明日になるだろう。「令和」の時代の初日から「令和」が使えるようになる見込みである。

和暦なのか西暦なのか

実用上の必要はないだろうが、実は「現在\和暦\西暦のどちらが有効であるか」を判定することができる。

  • ifthenパッケージを読みこむ。和暦対応のクラスにおいては西暦という名の真偽値変数が定義された状態になるので、これを用いて判定ができる。

    \ifthenelse{\boolean{西暦}}{%
      % \西暦 が有効
    }{%
      % \和暦 が有効
    }
    
  • ただし、BXjsclsのクラスと欧文(pdf)LaTeXの組み合わせの場合は例外で、この場合は西暦の代わりにjsSeirekiという真偽値変数を用いる。(和文の変数名が使えないため。)

例えば次のようにできる。

% upLaTeX文書; UTF-8
\documentclass[uplatex,a4paper]{jsarticle}
\usepackage{ifthen}
\和暦
\title{新しいテフライブがリリースされた件}
\author{非ZR}
\begin{document}
\maketitle
\begin{abstract}
{\TeX}~Live \ifthenelse{\boolean{西暦}}{2019}{平成31}% ええっ
における変更点(特にアレ性)について解説する。
\end{abstract}
\end{document}

f:id:zrbabbler:20190430144456p:plain
トッテモ実用的

Babelする場合は

Babelパッケージを利用する場合、\todayの表記はBabelの言語定義の内容に従うことになる。現在の版のBabelの日本語(japanese)用の定義では、和文クラスと同様に、\和暦\西暦命令がサポートされていて\todayの表記の切替ができる。

% upLaTeX文書; UTF-8
\documentclass[uplatex,a4paper]{jsarticle}
\usepackage[T2A,T1]{fontenc}
\usepackage{paratype}% PTフォント使用
\usepackage[prefercjkvar]{pxcjkcat}
% なぜか唐突にロシア語
\usepackage[main=japanese,russian]{babel}
\newcommand{\Ru}[1]{%
  \begin{otherlanguage}{russian}#1\end{otherlanguage}}
\和暦
\title{{\TeX}言語、ダメゼッタイ!\\
  \Ru{Никогда не делай {\TeX} язык!}}
\author{\Ru{не-ZR}}
\date{\today\quad(\Ru{\today})}
\begin{document}
\maketitle
% Ничего
\end{document}

f:id:zrbabbler:20190430145337p:plain
Babelしてみた

BXwarekiパッケージ

Beamerなどのスライド用の文書クラスでは、和文も欧文も共通のものが使われるのが一般的である。そういうクラスでは当然、\today命令は和暦表示どころが日本語での表示にも対応していない。

% upLaTeX文書; UTF-8
\documentclass[dvipdfmx,14pt]{beamer}
\usepackage{pxjahyper}% いつもの設定
\renewcommand{\kanjifamilydefault}{\gtdefault}
\usetheme{EastLansing}
\title{{\TeX}言語、ダメゼッタイ!}
\author{某ZR}
\date{\today}
\begin{document}
\begin{frame}
\titlepage
\end{frame}
\end{document}

f:id:zrbabbler:20190430151243p:plain
日本語ですらない

日付が英語表記の「April 30, 2019」になっている。

このような文書クラスで\todayを和暦で表示したい場合は、bxwarekiパッケージを使うのが手っ取り早い2。bxwarekiは次の命令を提供する。

  • \warekitoday: 今日の和暦の日付を算用数字(平成31年4月30日)で出力する。
  • \warekikanjitoday: 今日の和暦の日付を漢数字(平成三一年四月三〇日)で出力する。
  • \warekijkanjitoday: 今日の和暦の日付を漢数字(平成三十一年四月三十日)で出力する。
% upLaTeX文書; UTF-8
\documentclass[dvipdfmx,14pt]{beamer}
\usepackage{pxjahyper}
\renewcommand{\kanjifamilydefault}{\gtdefault}
\usepackage{bxwareki}% 和暦したい
\usetheme{EastLansing}
\title{{\TeX}言語、ダメゼッタイ!}
\author{某ZR}
\date{\warekitoday}% 和暦日付を明示指定する
\begin{document}
\begin{frame}
\titlepage
\end{frame}
\end{document}

f:id:zrbabbler:20190430152742p:plain
平成できた

さらに、\warekicustomdateという命令を使うと、日付3を様々な形式で出力することができる。だから実は「西暦の日本語の日付」を出力したい場合にも使える4

% upLaTeX文書; UTF-8
\documentclass[dvipdfmx,14pt]{beamer}
\usepackage{pxjahyper}
\renewcommand{\kanjifamilydefault}{\gtdefault}
\usepackage{bxwareki}
\usetheme{EastLansing}
\title{{\TeX}言語、ダメゼッタイ!}
\author{某ZR}
\date{\warekicustomdate{}}% 和暦じゃない
\begin{document}
\begin{frame}
\titlepage
\end{frame}
\end{document}

f:id:zrbabbler:20190430154226p:plain
西暦できた(えっ)

まとめ

というわけで、和暦したい人も、西暦したい人も、困った場合はbxwarekiパッケージを使おう!


  1. すなわち以下のクラス:ltjarticle、ltjreport、ltjbook、ltjtarticle、ltjtreport、ltjtbook

  2. 先述の通り、Babelを読み込んでメイン言語にjapaneseを指定すると\和暦が使えるので、こちらを利用する方法もあり、また(Babelの目的が多言語対応なので)その方がある意味で正攻法なのであるが、Babelは副作用も多いので、できるならば避けたいところである。

  3. \warekitoday等は必ず今日の日付を出力するが、\warekicustomdateは予め\warekisetdate命令で指定した日付を出力する。ただし、\warekisetdateの初期値は今日の日付であるので、\warekisetdateを使わない場合は\warekicustomdateの出力も今日の日付になる。

  4. \warekicustomdateの書式指定の文字列を引数にとる。引数が空の\warekicustomdate{}は西暦・算用数字で出力する。この他に、例えば\warekicustomdate{wk}だと和暦・漢数字(\warekikanjitodayと同じ書式)で出力する。